ロシア語を考えてみる【バーブシュカとバブーシュカの同異 ~Бабушка / Babushka~】吉田邦吉


みんなむかしは赤ん坊だった。

ある言葉、Бабушкаというロシア語がある。「お祖母さん」という意味だ。英語だとGrandmother。このロシア語の発音を日本の一部では「バブーシュカ」と言っていて「お婆さん」の意味で使っている。

たとえば『バブーシュカのおくりもの』(著 サンドラ・アン・ホーン 日本基督教団出版局)やチェルノブイリ関係の記事である。しかし、Sandra Ann Hornはイギリスの作家であり英語で記している。また、日本語のバブーシュカはGoogle検索結果だと「スカーフ」が出てくるのだ。

さらに、ロシア語学習の教科書では「バーブシュカ」なので、日本のロシア語話者の間ではバブーでなくバーブだということだから、わたしは疑問に思っていた。インターネットで十人以上のロシア語を母語とすると思われる人達の発音を確認してみてもバーブシュカであった。つまり、音のほうはバーブが本来なのだ。

コトバンクのデジタル大辞泉(小学館)で「バブーシュカ」は『《「老婦人・祖母」の意》女性が頭を覆うのに用いるスカーフ。三角形に折り、あごの下で結ぶ。レース編みで三角形に作ったものもある。』つまり、日本語としての「バブーシュカ」が老婦人やスカーフというのは相当に多数の人達が使用しているだろう。

老婦人とスカーフの話が出てきた。なぜなのか。おばあさんがスカーフしているからかもしれない。いずれにせよ、バブーシュカと発音する理由が分からない。JFKのWikipediaにバブーシュカ・レディーという項目を見つけた。ロシアでおばあさんがしているようなスカーフをしていたからそう呼ばれた女性がいるらしい。

想像するに、ロシアのおばあさんの写真を「こちら、バブーシュカ」と指さした場合、見ているほうは「これら多くの老女性がかぶっているスカーフのことだわ」と誤解しやすいかもしれないので、JFKや指差し会話によって広まった可能性がありえる。

wikiから書籍へ確定作業をしないが、とにかくこれは英語だ。英語で「babushka lady」という言葉があると分かった。英語でbabushkaはわたしの英和辞書にも掲載されていた。その発音が、バブーシュカであった。ロシアの老婦人、おばあさん、女性用スカーフとある。

この説明だと、「祖母」でなくなっているかもしれないが、日本の一部で使われているバブーシュカの意味合いと一致する。すなわち、日本のバブーシュカは英米……例えばアメリカナイズドという「中継地」を通していて、意味が揺れている気がするのだ。ちなみに、小学館は3つとも入れた。

いや、最初からロシア語のなかに全ての意味があるかもしれないが、発音だけ、アメリカに渡ったときにバブーシュカになって、日本に入ってきたのかもしれない。

いずれにせよ、バーブシュカとバブーシュカは「発音」が最も異なり、その主な意味としては、前者が祖母であり、後者が老婆またはスカーフなのであろうが、日本の一部ではバブーシュカがアメリカと同様、おばあさんやスカーフの意味でよく使われる。

しかし考えてみれば、日本でも、だれかが「〇〇祖母(ばあ)さん」と自分たちの身内を指して言う場合に、それを聞いている周囲の人達つまり地域のあいだで、「〇〇婆さん」の意味で、違う意味だが同じ音として、「通用する」ということがある。だから1つの音に2つの意味があるという、本来的な単語の使用のされかたかもしれない。

まあ、ロシア語を考えるというだけのことだから、あまりに細かいことは専門家に任せたいし既に書物があるかもしれないが。ついつい深夜までバブー、バーブと、赤ん坊のように言葉を思っていた。パパ、ママ、father, mom, 母、婆、……言わせたものもあるだろうが、赤ちゃんの声がそう決めたのかもしれない。

ある海外のジャーナリストによれば、大人たちが憎悪しあっていたり、そういう争いの荒れた言葉にまみれている日々が長いと、こどもたちまで理由なく憎悪感情をもってそう行動するようになるという。よくないことだ。

みんなむかしは赤ちゃんだったんだから、みんなの声はもともとは全部バブーとかバーブぐらいだったんだ。いまもそれとなにが違うのか。

いや言葉という宝の持ち腐れ、大人は赤ちゃんに劣っているのだろうかと争いごとを見ていると思わなくもないが、おばあちゃんからしたら赤ちゃんの泣き声みたいなものかもしれない。

最後になるが、これを書いたあとに、手元にあるロシア語辞典を調べてみることを忘れていた。調べてみたら音はバーブシュカであり、意味は、祖母であり、老婦人であった。よってロシア語ではスカーフ無しである。じっさいバーブシュカは多くがスカーフをかぶっているので、いわゆる一般的な印象としてのおばあちゃんに含まれている扱いだろう。

さらに言えば、アクセントには長短や強弱そして高低という多様性があり、バにアクセントを入れてバーブと言っていても聴きとるほうからするとバブーというように伸ばしているように聞こえる場合もある。つまり音やローマ字表記で英米に輸入されてそうなった可能性もある。

なお、「姑一人で鬼千匹」とも日本では言う話もあり、ロシア語にはBA BAという言葉もあり、おまけに、このロシア語のバーブシュカの綴りを見ていると、「Baby」に見えてくるから、とことん不思議だ。

※この単語の歴史について詳しいかたいらっしゃればメールフォームにてご教授ください。

※SNSで友人がこれを教えてくれた。音そのままで曲名を綴っている。わたしの文章から連想すると「老婦人」が「熟女」と解釈され、恋愛に海千山千が「秘密の女」そして「スカーフで隠す」というイメージでバブーシュカという曲にしたようにも歌詞が読める気がした。

Kate Bush – Babooshka
https://www.youtube.com/watch?v=6xckBwPdo1c


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吉田 邦吉

吉田 邦吉 について

CHIEF EDITOR ▼Yoshida Kuniyoshi / 小さな雑誌『WELTGEIST FUKUSHIMA』の編集長をしている自由人。1981年1月大熊町の農家に生まれ育つ。政府避難指示区域内農業関連公共事業者。大型特殊免許。宅地建物取引士。中大法学士 (刑法)。エッセイが致知出版にて大坪社長特別賞。2017年から歩き走り現在、日々4kg背負い150m低山を4往復でマラソン20kmを走っている。総計10,000km超。20語学を学んでいる。2017, 2018年に順次、禁酒、禁煙となる。編著『フクシマ発』(現代書館)。文化庁支援事業LMN、福島県立博物館、横浜美術館ヨコハマトリエンナーレなどで講師 (日本遺産認定直後の会津三十三観音巡礼講演は福島県立博物館講堂で満員御礼)。私設図書館「ふくしま本の森」にて活動。NHK BS1 スペシャル (+ world premium)「福島タイムラプス」(出演)が全日本テレビ番組製作社連盟ATP賞テレビグランプリ優秀賞、ニューヨークでも受賞。facebook / website / Amazon/ Twitter/ Instagram / note▼ Essayist. Public enterprise of agriculture at Okuma town in Fukushima, where has been legally off limit area since 2011. Private school. Nuclear evacuee. Independent publisher. Jurisprudence. Majored in law, Chuo Uni, related to the Middle Temple in London. A special essay prize on a first-class magazine 2015. Lectures and Talks at Fukushima prefectural Museum, Yokohama Municipalcity Museum of Art as Yokohama Toriennale 2017 with works by Olafur Eliasson etc. Like learning languages, Folklore, etc. So many Appearances of Newspapers, Radio, TV, Internet, and NHK BS1 SPECIAL and NHK world premium (Fukushima TImelapse, ATP award TV grand prix, outstanding performance award 2018 in Japan. Also, in New York it received an award). Marathon 20 km with 4kg and study 20 languages everyday. Live in Fukushima.