うつのみや妖精ミュージアムへ -伊藤千惠

“妖精学”ってごぞんじですか?
ヨーロッパ全域の民間伝承に登場する“妖精”の淵源はいくつか大別できますが、ケルト神話から派生しているものも多いんですね。
なんてことを学術的に体系化したのが妖精学。その日本での第一人者が*井村君江さんです。

わたくしごとで恐縮ですが、昔から本を読むことが三度のメシの次くらいに好きで、いっとき幻想文学や妖精譚=フェアリーテイルに熱中しました。そのとき読んだ妖精に関する文献は、ほとんど井村さんの著書か訳書でした。

宇都宮の妖精ミュージアムには、当市出身の井村さんから1万点をこえる妖精関連資料が寄贈されています。名誉館長として毎月、ギャラリートークを開催されているという情報をヴェルトライターの吉田葉月さんから聞き、7月4日、ご一緒させてもらいました。

うつのみや妖精ミュージアム、右奥には妖精に関する蔵書を自由に読めるコーナーが。

うつのみや妖精ミュージアム

うつのみや妖精ミュージアム

入ってすぐのこじんまりとしたミュージアムショップ

うつのみや妖精ミュージアム

うつのみや妖精ミュージアム

6、7月はケルト神話がテーマということで、この日は主な神話の概要とケルト民族についてのエッセンスのようなお話。なにしろ、ケルトについては文献がカエサルの「ガリア戦記」くらいしかなく、はっきりとわかっていることは少ないようです。

神話の中の英雄たちがかわす「ゲッシュ=誓約」という概念、ケルト暦は闇からはじまるという話を非常におもしろく感じました。
英雄たちは、ある動物を食べてはいけないとか、悲恋の相手を連れて逃亡するとか、それぞれゲッシュを交わすのですが、必ず最後は破綻します。
日本人は「契約」という概念がもともと稀薄であるということはよく言われますが、なるほど日本の神話やフォークロアには、それに該当するものがないように感じます。西洋起源の「契約」は当初は相手を縛るものであるけれど、必ず破られるということは現代にも通底しているかもしれません。

また、井村さんの「闇からはじまる」という表現のゆえんは、ケルト暦は日没が一日のはじまりで、10月31日すなわちハロウィンが大晦日であり、その夜から新しい年がはじまり、もろもろのものが生成されるということです。
人間が死後に行く世界は、日本では西方浄土、極楽浄土、あるいは黄泉の国など、現世を隔てる異界としてあります。日の沈むところと地下世界。
ケルト民族にも、ティル・ナ・ノグ(常若の国)と地下の国という異界観があり、同じように日の沈むところと地下世界と共通した認識があることがおもしろい。

世界の神話の類似性は心理学者ユングの指摘するところですが、こういった日本の神話との共通点あるいは相違点を比較し、その意味を分析してみるとおもしろい発見があるのでは?と思ったことでした。

井村君江氏

井村君江氏

私は今回、井村君江さんご本人のことはあまり存じ上げずに、トークを聞かせていただきましたが、井村さんは1999年に脳梗塞で倒れ、左半身不随になり車椅子で生活されています。そんな不自由さをまったく感じさせないキュートなお人柄と闊達なお話でした。
ご本人のたどった足跡もまたうかがってみたいと思うのです。


井村君江
(いむら きみえ、1932年3月1日 ― )
日本の英文学者・比較文学者。ケルト・ファンタジー文学研究家。フェアリー協会会長。イギリス・フォークロア学会終身会員。明星大学名誉教授。妖精美術館(福島県大沼郡金山町)館長。うつのみや妖精ミュージアム名誉館長。
2003年に生まれ故郷の宇都宮市にケルト・妖精関係資料(文豪の自筆原稿や貴重な美術品を含む)を寄贈した。寄贈された資料を展示するため、2007年7月31日、世界的にも珍しい妖精をテーマにした美術館うつのみや妖精ミュージアムがオープン。名誉館長に任命される。
(ウィキペディア2015.7.7現在)